バッコ博士の構造塾

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大成建設の超高層制振マンション:TASS Flex-FRAMEの考察

スーパーゼネコン各社のタワーマンション用の制振、免震システムの考察も4回目となりました。

 

□■□疑問■□■

大成建設の独自技術、TASS Flex-FRAME(タス・フレックス・フレーム)を採用したマンションの性能はどうでしょうか。

 

大林:DFS(デュアル・フレーム・システム)

鹿島:スーパーRCフレーム構法

清水:スイングセーバー

竹中:THE制振ダブル心柱システム

 

□■□回答■□■

他のスーパーゼネコンの技術とは少し雰囲気が違うように感じます。他社技術は「品質価格」路線のようですが、TASS Flex-FRAMEは「品質価格」を謳っています。また、比較的平面形が小さいタワーマンションにも適用可能な技術ということで、建物形状や敷地条件によっては最適解となり得ると思います。まだ実際のプロジェクトに適用はしていないようですが、今後の動向に注目です。

 

 

TASS Flex-FRAME(タス・フレックス・フレーム)とは

ソフトストーリー制振の超高層建物への適用

建物低層部をあえて柔らかくし、そこに建物の振動のエネルギーを吸収するダンパーを集中的に配置することで効果的に建物の揺れを低減させる、これが「ソフトストーリー」です。

制振構造がよくわかる:構造設計者がまじめに解説してみた

 

高さ60m前後の鉄骨造の高層ビルに適用されている例はありますが、TASS Flex-FRAMEでは高さ100m超の鉄筋コンクリート造の高層マンションに適用するという、思い切った技術です。

 

実際に設計あるいは施工しているという話は聞いたことが無いので、まだ実例は無いと思います(2018年6月現在)。

 

しなやかな骨組

通常は1層から2層程度「柔らかい層」を設けるのですが、TASS Flex-FRAMEでは建物全体の1/3から1/2まで柔らかい層としています。40階建てのマンションであれば13層から20層程度までが、あえて硬さを抑えた層となっているようです。

 

建物を柔らかくするために、従来よりも強度の高い材料を用いることで部材断面を小さいくしています。これにより建物低層部が「しなやかに変形する骨組」となるようです。

 

ソフトストーリーでは柔らかい層を多く確保し、変形する量を増やせば増やすほど制振効果は高まります。10層以上確保しているので「免震建物」のような効果も期待できるかもしれません。

 

足元が回転できる連層壁

なぜ誰も超高層建物にソフトストーリーを適用してこなかったか、それは柱の支える重量が非常に大きいため、低層部を柔らかくするとグシャっと潰れてしまわないか不安だからです。

 

恐らくその解決策として、柔らかくした層の高さと同じだけ「連層壁」を設置しています。超高層マンションでは建物中央部に空間があることが多いため、そこを利用して壁を構築しています。他社技術と異なり、壁と建物の間にスペースが必要ないため、平面形の小さなマンションにでも適用ができます。

 

「せっかく柔らかくしたのに、壁を入れたら硬くなるじゃないか」という疑問が生じるところですが、この壁は「足元が回転できる」のです。

 

低層部全体が変形しようとすると壁は滑らかに倒れるため、低層部の硬さはほとんど変化しません。ただ、特定の層だけが変形しようとすると壁がそれを阻害します。これにより、グシャっと部分的に潰れることを防ぐことができます。

 

また、この壁は2枚1セットになっており、壁の間にオイルダンパーを縦に設置しています。建物が地震時に横に動くのを縦の動きに変換・増幅しており、層と層の間を繋ぐようにダンパーを設置するよりも、エネルギー吸収効率が数倍に上がっているでしょう。

 

TASS Flex-FRAMEの設計上の留意点を考察

連層壁の脚部

構造設計者であれば誰でも一番に気になるのが「回転できる」という壁の足元でしょう。恐らくこの壁自体は鉄筋コンクリートでできていると思われますが、足元部分は一体どうなっているのでしょうか。

 

コンクリートとコンクリートの接合部を回転が自由にできる「ピン接合」にすることは非常に難しいです。ましてや、大きな壁の足元という力が集中する箇所です。何か特殊な装置を使用していると考えられます。

実建物におけるピン接合と剛接合:構造設計における本音と建て前

 

とはいえ、足元では壁の自重に加え、ダンパーの反力による力の押し引きも支持しなくてはなりません。その状態で自由に回転できるものとは何でしょうか。関連特許、あるいは論文が発表されていないかサーチしてみることにします。

 

柔らかくする程度

ソフトストーリーと言っても、柔らかい層はいくらでも変形してもよいということではありません。当然ながら変形制限もありますし、いくら高強度の部材と言えど変形が大きくなれば損傷が生じます。

 

変形させるほど制振効果は高まるものの、どこまで変形を許容するかというのは設計上の大きなポイントとなります。ましてや超高層建物です。何千トンという荷重を支えた柱をあまり大きく変形させるのは気持ちのよいものではありません。

 

柔らかい層と、それより上の層、どれくらいの変形制限を設けているか知りたいところです。

 

壁への応力伝達

このシステムでは回転できる足元を中心として壁が動くことが前提となっています。それにより壁間に設置したダンパーも効果を発揮するわけです。建物とは基本的にほとんど動かないものであり、動く部分を作るときは細心の注意が必要です。

 

壁は足元が回転できるため、建物の動きとは少し違う動きをします。しかし、当然ながら建物と壁は繋がっている必要があります。この動きの差を考慮しつつ、うまく建物から壁へ、壁から建物へ力の伝達を考えるのはなかなか難しそうです。ましてや超高層建物ですから、力のオーダーもかなり大きなものになります。

 

もしモデルルームが公開でもされたら、図面を確認するため足を運ぶかもしれません。

 

高性能低価格

気になるところが色々ある、とても面白い技術ではありますが、最も面白いのは「通常よりも安い」というところです。プレスリリースに「安い」としっかり書かれているのです。「いいものを安く」の大成建設らしい技術と言えます。

スーパーゼネコンの違い:技術開発の方向性から会社方針を考察

 

他社が高級路線を打ち出していると思われる中で、とても素晴らしいと思います。誰だって品質のいいものが安ければうれしいです。もし本当に従来よりも安く、品質が高いのであれば、この先多くの実施適用がなされるでしょう。

 

これからの建設数に注目したいと思います。