バッコ博士の構造塾

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清水建設の超高層免震マンション:スイングセーバーの考察

スーパーゼネコン各社がタワーマンション用の制振、免震システムの開発を競っています。

 

□■□疑問■□■

清水建設の独自技術、スイングセーバーを採用したマンションの性能はどうでしょうか。

 

大林:DFS(デュアル・フレーム・システム)

鹿島:スーパーRCフレーム構法

大成:TASS Flex-FRAME

竹中:THE制振ダブル心柱システム

 

□■□回答■□■

数ある超高層免震マンションの中でもさらに高い性能を有していると考えられます。通常の超高層免震マンションに住むより、断然こちらがいいでしょう。ただ、一点気になるのは、使用しているダンパーが鋼材ダンパーだということです。細かい差ではありますが、オイルダンパーなら文句なしでした。

 

 

スイングセーバーとは

清水建設の独自技術であるスイングセーバーが豊洲の「ベイズタワー&ガーデン」に初適用されました。2016年に竣工しています。

 

超高層マンションの中央部にある空間を利用して、コンクリートの非常に硬くて強い構造物を造ります。そして、この硬くて強い構造体と外周の免震建物とした住戸部分とをダンパー(振動のエネルギーを吸収する装置)で接続しています。

 

もしかしたら一部の方は「あれ、大林組のDFSハイブリッドと何が違うの?」と思われたかもしれません。実はその通り、ほとんど構成は同じです。ただし、構造設計者からすれば明らかな、一般の方からすれば「それだけ?」というような違いが1つあります。

 

それは使用しているダンパーの種類です。

 

大林組のDFSハイブリッド:オイルダンパー

清水建設のスイングセーバー:鋼材ダンパー

制振・制震ダンパーの種類と特徴:構造設計者が効果を徹底比較

 

基本的にはたったこれだけのことです。細かい違いを挙げるなら、大林組のDFSハイブリッドは中央の構造体が完全な壁、清水建設のスイングセーバーは柱梁で構成されているように見えるということでしょうか。

 

特許

大林組も清水建設も独自技術の特許を取得しています。ただ、大林組の方が先です。清水建設の特許の申請状況を見てみると、使用するダンパーの文言を修正されています。構成が似ているので、細かいところを変えてなんとか通したのでしょう。

 

清水建設としては「真似をしたわけではない、後追い技術ではない」というスタンスですが、傍から見るとそう取られてしまっても仕方がない状況ではあります。

 

そのため、最も性能がいいと思われるオイルダンパーが使用できず、鋼材ダンパーになってしまったのではないでしょうか。「鋼材ダンパーは省スペースでよい」とHPに書かれていましたが、オイルダンパーでもスペースを取らない設置はできますし、むしろ変形追従能力はオイルダンパーの方が上です。そしてなんといっても大地震時のみならず、中小地震時の性能もオイルダンパーの方が上です。

 

中央の構造体が壁じゃなく柱梁で構成されているのも特許の問題かもしれません。

 

スイングセーバーの設計上の留意点を考察

大林組のDFSと同じ構成ですので、留意点も同じです。壁の基礎をどうやって硬く造るかということと、中央の構造体にひび割れが入らないようにするにはどうするかということです。詳細はDFS を見ていただくこととして、スイングセーバー特有の問題を挙げます。

 

鋼材ダンパー

それはまさに大林組のDFSとの違い、鋼材ダンパーです。

 

鋼材ダンパーはある程度大きな力が作用するまでは、ただの鋼の棒と同じです。小さな地震に対しては建物の振動エネルギーを吸収しません。また、鋼の棒ということは非常に硬いということです。

 

免震建物は免震層という柔らかい層の上に載っているから地震の力を軽減できます。それを硬いものとわざわざ繋ぎ直すということは、鋼材ダンパーがエネルギー吸収を始めるまでは免震効果がなくなるということです。

 

実際には鋼材ダンパーで繋いでも通常の「耐震」建物よりは十分柔らかいので、免震効果が一切無いということにはなりません。それに中規模の地震であれば鋼材ダンパーも仕事を始めるので問題はありません。ただ、これだけ高い安全性を狙っている建物なので、少し残念だなという気がしないでもありません。

 

ダンパー接合部

HPを見ると、中央の硬い構造体から免震の住戸部分に向かって腕を出すような形で2棟間がダンパーで接続されています。エネルギーを吸収する一番重要な部分がダンパーですが、当然それを支える土台部分も同様に重要です。この部分が緩んでしまえば、ダンパーの効果が半減してしまいます。

 

この腕を伸ばしたようなダンパーの接合部は、腕を伸び縮みさせる方にダンパーが動く分には十分な硬さを発揮しそうです。ただ、腕を左右に振るような方にダンパーが動く場合、少し弱そうな印象を受けます。

 

図をわかりやすくするために簡略化して描いているのだとは思いますが、現状の図では少し不安です。ただ、そんなこと言われなくても清水建設の構造設計部が見逃すはずはないので、しっかりと設計されているでしょう。

 

まとめ

どうしても大林組のDFSハイブリッドと比べてしまい、性能が少し劣るような書き方になってしまいましたが、実際には非常に高い安全性を有していると考えられます。鋼材ダンパーの硬さを利用して、強風時の免震層の変形を小さくしているのかもしれません。

 

いずれにせよ、連結免震構造というのは非常に珍しい構造です。まだ実際の地震を経験していません。恐らくデータ解析用のセンサーを設置しているようですから、いつか地震のあとにそのデータを公開し、素晴らしい性能を持っていることを証明してほしいものです。