バッコ博士の構造塾

建物の安全性について本当のプロが綴る構造に特化したブログ

優秀な建築士の見分け方:構造に関するたった2つの質問

建物が地震に対して強いかどうかは「構造設計者の技量で決まる」と当ブログでは一貫して主張しています。

 

□■□疑問■□■

優秀な建築士かどうかはどうすれば判断できますか。簡単な判別方法があれば教えてください。

 

□■□回答■□■

デザインやプランニングに関しては十分に話し合いをして決めると思いますが、こと構造に関しては「強い家にしてください」とだけお願いして任せっきりになっている人が多いように思われます。まずは「構造に興味がある」ことをしっかり主張して、何でも気になることを聞いてください。それに加えて、構造設計者なら確実に押さえておかないといけない下記のポイントについて聞きましょう。

 

 

質問1:この建物の重さはどのくらいですか?

構造設計をする際の基本中の基本、それが建物の重さです。重力も地震力も建物の重さに比例します。重さを知らずして一体何を設計するのか、ということです。

 

構造設計の基本を押さえる:建物の重さの話

 

別に「基礎まで含めて62.24tですね」と事細かに数値を覚えている必要はありません。「1階は大体○○tで、壁を多くしているので少し重めだ」とか「屋根は軽い材を使っていますが、複雑な形状なので増加した木材分と合わせると△△kg/m2くらいですかね」で十分です。

 

木造住宅では構造計算をしない場合も多いので、正確な重さを拾っていないことは十分考えられます。ここで確認したいのは、その建物の重さが平均的な建物と比べてどう違うか、つまり「どんな特性を持った建物か把握しているか」ということです。

 

「いちいち計算しないのでわかりませんね」は赤信号、「普通は□□kg/m2くらいですよ」には「じゃあこの建物は?」と食い下がってみてください。「まあ、普通と同じくらいじゃないですか」となるとこれまた赤信号です。仮にまだ構造設計が始まっていないにしても、経験があれば大体の重さはわかるはずです。

 

質問2:この建物が壊れるときはどこから壊れますか?

壊れないようにするには、どこが壊れるか知らなければ対策ができません。一番弱いところから対策していくのが基本です。建築基準法を満たしているからそこで終わり、ではありません。

 

「震度7でも壊れないから心配いらないですよ」とはぐらかされてもしつこく聞きましょう。どんな建物であれ、設計時の想定を超えた巨大な地震が来れば壊れます。だから「壊れ方」が重要になります。

 

「構造計算をしていないからわからない」は論外です。計算しなくても力の集中する箇所、変形が大きくなってしまう個所はわかります。また、あくまでも計算は計算です。いろいろな仮定に基づいています。建物が壊れるときはこの「仮定」した範囲を超えているため、どう壊れるかを「想像する力」が必要になります。

 

せめて「1階が先に壊れる」や「東面が壊れやすい」くらいの回答は最低でもほしいです。本当に最低限ですが。どの柱、あるいはどの壁が一番頑張って力を負担しているかくらいは押さえておくべきです。

 

真面目に構造設計をしたのならば、いろいろと聞いてくれるお客さんはありがたいです。どちらかというと日陰の存在なので、スポットライトを浴びる機会を心待ちにしています。

 

「この部分が弱い、だからこう補強した」という設計の方針から、「ここに壁を入れさせてくれれば2割くらい強くなる」という提案まであってしかるべきです。建物が壊れていく過程が説明でき、それを踏まえた対策や工夫がどう建物に組み込まれているかを語ってほしいものです。

 

こんな構造設計者は嫌だ

上記の2つの質問ではまだ不安だという方のために、ダメな例を挙げてみます。

 

経験則・勘で語る

おそらく、設計した建物が震度6強以上の地震に遭遇したことがある建築士はそう多くないでしょう。ほとんどの建築士が自分の設計した建物の本当の強さを知らないのです。

 

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」と言いますが、まず経験することすら稀なのが耐震工学です。ベテランの職人さん、大工さんに任せておけば大丈夫ということはありません。もちろん建築士も同じです。

 

「今までこうしてきた」というのは、さしたる信憑性を持っていません。最新の知見を得る努力を怠っていることの証左です。

 

構造計算信者

構造計算したから大丈夫、構造計算していないからわからない、構造計算上は・・・。構造計算は構造設計の良し悪しを最終的に判断するただの確認作業です。建物を強くするのは構造計算ではなく構造設計です。

 

もちろん、計算するに越したことはありません。ただ、盲信してはいけません。実現象はそんな単純な計算だけでは表しきれない、複雑な事象です。

 

力の流れが説明できない

壁が地震の力を負担するには、建物に生じた地震の力を壁まで伝える必要があります。地震の力を無事地面まで伝えることができて、初めて地震に耐えられることになります。

 

力がどのように伝わっていくかという流れが見えていなければ、図面上にいくら壁の絵を書き足しても意味がありません。構造計算や構造設計の根底にある問題です。しっかり説明してほしいものです。

 

口下手は許して

住宅を扱う建築士は全て自分でやる場合も多いため、お客さんへの説明機会も自然と多くなります。ただ、本当に構造に特化している建築士はもはやエンジニアです。場合によっては全く施主としゃべることなく仕事を終える場合もあります。

 

口のうまい人や楽しい人もたくさんいますが、口下手な構造設計者ももちろんいます。だからといって優秀かどうかには関係ないので、そこは許してあげてください。