バッコ博士の構造塾

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木造住宅に構造計算は必要か?計算よりも大事なこと

小規模な建築物は、建物の安全性を検証する「構造計算」を行わなくても建設することができます。

 

□■□疑問■□■

一般の木造住宅では構造計算がなされていないと聞きました。大地震に対して十分な耐震性が確保されているか不安です。

 

□■□回答■□■

構造計算されていない木造住宅は多く存在します。構造計算された建物の方が、構造計算されていない建物よりも強い傾向にあります。可能であるなら構造計算は行ったほうがいいでしょう。しかし、「建物が倒壊する、しない」は「構造計算をした、しない」に直接関係するわけではありません。構造計算していたとしても、計算時に設定した地震の力よりも実際に生じた地震の力が大きければ倒れます。

どの程度の地震力を想定するか、どの部材が力を負担するか、どの程度まで部材および建物が変形することを許容するか、というストーリーを組み立てるのが「構造設計」であり、そのストーリー通りの建物になっているかを数値的に確認するのが「構造計算」です。構造設計と構造計算は似て非なるもので、構造計算ソフトの出力でしか安全性を語れないような建築士は構造設計者ではありません。

 

 

木造住宅は構造計算が不要?

建物の規模により構造計算の要・不要が変わります。木造の場合、最高高さが13m以下、軒高が9m以下、2階建て以下、床面積500m2以下の全ての条件を満たせば構造設計は不要です(もちろんやってもいいです)。

 

2階建ての木造住宅であれば、この条件を満たす場合がほとんどです。そのため、木造住宅の多くは構造計算を行わずに建設されています。建売では大々的に宣伝されていない限り計算はしていません。構造計算をしていることを売りにしているハウスメーカーもありますが、構造計算されていない建物が多いことの裏返しです。

 

構造計算をしていないからといって、構造について何も検討していないというわけではありません。「壁量計算」は必ず行っています。木造住宅の耐震性は壁の量が非常に重要ですので、この壁の必要最少量を建築基準法では規定しています。壁量計算では、壁の量がこの規定を満たしているかどうかの確認を行っているのです。

 

「木造 構造計算」で検索をかけると、「構造計算しないから倒れる」「構造計算は必須」といった内容のページが多く表示されます。確かに、構造計算を行えばいいことはたくさんあるでしょう。ただ、構造計算さえすれば全てが解決されるような誇大な表現には疑問を感じます。

 

構造計算をした木造住宅が強い理由

壁量計算とは前提が違う

建物には「耐震壁」と呼ばれる地震の力に抵抗する壁と、「雑壁」と呼ばれるその他の壁があります。耐震壁は筋違いや合板などのしっかりとその階の床から上の階の床まで連続している壁です。雑壁は窓の上下に取り付いた階の中間で途切れているような壁や間仕切り用の弱い壁です。

 

建物に取り付いている以上、雑壁も実際には地震の力に抵抗します。しかも意外にその効果は大きく、実験では地震の力の1/3程度を受け持つことが確認されています。しかし、形状や材料、その他がケースバイケースで統一的な取り扱いが難しく、簡単には評価できません。

 

壁量計算は構造計算をしない代わりに行う簡単な検証です。雑壁の一つ一つを真面目に検討することはありません。そこで「平均的にこれくらい負担するよね」という前提のもと、必要な耐震壁の量自体を割り引いているのです。

 

平均的な雑壁量がある建物であれば問題は少ないですが、雑壁が極端に少ない場合、必要な壁量の70%程度しか確保できていないことになります。しかし壁量計算ではそこが評価できません。あくまでも「平均的」な場合を想定しているのです。

 

構造計算であれば、雑壁も含めた検証が可能です。そのため、適正な量の耐震壁を確保できます。

 

各部材の負担がわかる

構造計算をしない場合、いくつかの仕様規定を守っていれば、あとは壁量計算だけで構造に関する検討は終了します。広い空間を支える梁や、耐震壁を支える梁は通常の梁より大きな力を負担しますが、数値的に検証する必要はありません。建築士や大工、木材加工工場の経験や勘で決定されている場合がほとんどです。

 

経験や勘がうまく働いてくれればいいですが、少しでも普段と違うようなことをすると途端に問題が発生する恐れがあります。例えば、出が大きいバルコニーやスキップフロアなどが該当します。力学が全く(と言うと言い過ぎかもしれませんが)わかっていない建築士も存在します。

 

その点、構造計算をすると全ての部材にどのような力がかかって、どのくらい変形しているかということがわかります。梁の大きさを調整したり、壁の配置を変更したりして各部に生じる力を基準値に納まるよう調整します。

 

構造計算を行うことで、思った以上に負担が大きい梁がある、壁の量が少なく建物の変形が大き過ぎる、というような事態を防ぐことができます。

 

構造計算よりも大事なこと

計算をすれば強くなるのか

壁量計算では、雑壁の評価が過大になることがあり、耐震壁の量が不足する場合があります。また、過大な負担を強いられている部材の存在を見逃す可能性があります。しかし、これは構造計算をしなければわからないことなのでしょうか。

 

経験のある建築士であれば、その建物の雑壁が多いか少ないかは判断できるでしょう。その分だけ壁の量を増やせば問題ないのです。また、木造住宅程度の小規模な建築物で力の負担割合を読めないようでは、構造設計者としては能力不足と言わざるを得ません。

 

木造住宅は「壁」の構造です。柱や梁で地震に耐えるラーメン構造とは違います。電卓1つあればかなりのことがわかるのです。

 

「構造計算したから半壊すらしていません」という宣伝文句もありましたが、あまり因果関係があるようには思えません。基本的に震度6強や震度7で「倒壊しない」ことを建築基準法では求めているのです。「損傷しない」ことは求められていません。

 

計算しようがしまいが、基準ギリギリの設定をしていれば損傷しても不思議はありません。雑壁の評価分だけ仕様が高かったか、元々余裕をみた設計をしていたかのどちらかです。

 

構造計算により、建物が有する耐震性の最低ラインは上がります。ただ、その建物が本当に標準よりも強いかどうかということは、構造計算したこととは関係がありません。

 

構造「設計」が大事

「構造計算」とは基準を満たしているかどうかの「確認作業」です。市販のソフトを使用して計算を行うため、基本的には誰がやっても同じような結果が出ます。

 

それに対して「構造設計」はどうやって安全性を確保するかという「方針の策定」です。どの程度の地震力を見込むか、余裕度の設定はどうするか、どこまでの変形は許容するか、この設計方針に従い、部材配置や断面選定を行います。

 

当然必要に応じてプランの変更も要請します。よっぽど変なプランでなければ、変更しなくとも基準を満たす設計をすることは可能です。しかしそれでは「設計者」ではなく、ただの「計算者」に成り下がってしまいます。

 

構造計算された建物は全て同じように安全でしょうか。数値上の安全率が同じであれば、同じ強さを持つ建物と言えるでしょうか。それは違う、ということを優秀な構造設計者であれば知っています。

 

「構造計算」も大切ですが、それ以上に大切なことは「構造設計」に優秀な建築士が関わることです。